映画 クオ・ヴァディス(51米)
紀元64年。ブリテンで勝利を上げたマーカス・ビニキウス(ロバート・テイラー)はローマへ戻るところだったが,そこにネロ帝から市街で野営するようにとの命令が届いた。ビニキウスはすぐ皇帝に会うべくローマに向かった。作曲で悩んでいた皇帝は,明日,多方面からの軍とともに凱旋させると言って慰めた。
ビニキウスはその晩,伯父ペトロニウスの勧めで老将軍の家に泊まったが,そこで美しい娘リジアと知り合った。ビニキウス率いるローマ軍の武勲談にもリジアは関心を示さない。リジアは,ローマ人ではなくリジア人―王の娘だが罪滅ぼしとして捕虜から養女にされていた―だった。
そこにパウロがやってくるとリジアらは歓迎し,ビニキウスは野営地の視察に向かった。老将軍の一家はキリスト教徒で,パウロがペテロ―キリストと直接話したことのある使徒―と会ったと聞いて感激した。
その晩,リジアが地面にキリスト教徒のシンボルである魚の絵を描いているとビニキウスがやってきた。言い寄るビニキウスにリジアは魅力を感じないでもなかったが,征服や流血の話を嫌っていた。武力を用いなくても世界を統一できるというパウロの話をしたが,ビニキウスが理解するはずもなかった。
凱旋式の祝典。ネロは民衆の見せ物になるのが耐えられなかったが,ペトロニウスが,芸術家には観衆が必要とか,支配者には支配する民衆が必要などと言って納得させた。
ペトロニウスは甥のビニキウスに美しいスペイン奴隷エウニケを贈り物として与えようとしたが,エウニケはよそにやらないでくれと懇願,ビニキウスも受けなかった。ビニキウスは捕虜のリジアをもらいうけるためのアドバイスを乞い,ペトロニウスは捕虜は皇帝のものだと指摘した。ペトロニウスは女の真の愛など見たことがないという。そのころ,(肌を傷つけないように)鞭うちされたエウニケはペトロニウスの頭像にキスするのだった。
リジアは皇帝の命令で宮廷に連れてこられた。ビニキウスが頼んだのだった。皇帝もリジアの美しさに目をとめるが,ペトロニウスはすかさず,陛下の見識ならきっと腰が細すぎるとお見通しでしょうと言い,皇帝も同意した。皇帝はリジアをビニキウスに与えると言ったが,その美しさに迷いを見せる。ペトロニウスが「ただ一つ欠点が」と言い,皇帝も腰が細すぎると言ったことを思い出し,そのままに去った。リジアはビニキウスの卑劣なやり方に当然反発した。キリスト教徒である女官長のはからいで味方に連絡をつけてもらえ,ビニキウスの家に連れられる途中,護衛が襲われてリジアは消えた。
ビニキウスがペトロニウスにぐちを言う中でパウロのことに触れると,ペトロニウスは彼らがキリスト教徒だと察した。ビニキウスはキリスト教徒というのが死んだ大工を崇拝する一団だとしか知らなかった。
ビニキウスは事情通の手引きでキリスト教徒の秘密集会に行った。そこではパウロが老ペテロを特別ゲストとしてみなに紹介しているところだった。その帰り,ビニキウスはリジアを尾行するが,屈強な護衛に倒される。護衛はビニキウスを連れ帰り,リジアらが看病した。
翌朝目覚めたビニキウスは負けを認め,もう追わないから家に帰れと言って去ろうとした。するとリジアは嫌ってはいないと言ってビニキウスにキスした。ビニキウスは妻になってほしいと言った。家に十字架を置くことも認めたが,「最近は新しい神様も増えていることだし」という程度の認識で,キリスト教の愛を理解しようとはしなかった。キリストか自分かを選べと言われてキリストを選ぶリジアを見ると,ビニキウスはキリスト教がローマにとって脅威だということがよくわかったと言って出ていった。
そのころ,ネロはローマの再開発をたくらんでおり,そのためにローマを焼くことまでも考えていた。賛成するとは思えないペトロニウスはこのところ遠ざけられていた。
映画 クオ・ヴァディスあらすじ~ビニキウスとリジア~
ペトロニウスはビニキウスのさまを見てエウニケが誰を愛するかと尋ねたことがあった。そのとき,エウニケは勇を鼓して「ご主人様です」と積年の思いを告げた。ペトロニウスは意外ではあったが,早速海に誘い,以来恋仲になっていた。
ペトロニウスが久しぶりに皇帝に召された。皇帝は新しいローマ「ネロポリス」の模型を示した。廷臣たちは絶賛するが,ペトロニウスは今あるローマはどうなると尋ねた。
ネロはさも意外そうに,「なに?ローマが今あるとは知らなかったぞ。」
そこに近衛隊長がローマが火の海だと報せてきた。ペトロニウスは「今やネロは歴史に名を残した」と一人ごち,ビニキウスは急ぎローマに向かった。逃げまどう人々のなか,リジアの家が空であるのを確認したビニキウスは,人々を下水道に誘導した。ビニキウスはリジアに再会し,橋をふさいでいる近衛兵の隊長を倒して人々を逃げさせた。
ネロは宮殿の屋上に廷臣たちを伴い,燃えるローマを自分の作品と呼んで琴を手に作曲を始めた。
宮殿に群衆がなだれ込んできた。誰も打つ手がなかった。ネロは近衛隊長に罪をかぶらせようとするが,そうすれば近衛兵が皇帝を殺すと逆に脅迫された。絶望するネロに皇后ポッパエアが助言した。民衆は復讐を求めている。キリスト教徒に罪をかぶせればよいと。
ネロはキリスト教徒など聞いたこともなかったが,それを認めた。ペトロニウスは反対するが,皇后は甥の恋人がクリスチャンだから自分もそうなのだろと言う。ペトロニウスは,キリスト教徒は隣人を愛せというが,自分はこうして見ていると周囲の者を愛することができないと言ってのける。ネロは笑ったが,キリスト教徒を犠牲にするという考えは変えなかった。
ペトロニウスは命令書に署名してキリスト教徒を断罪することは自らを後世の目において断罪することになると言ったが,ネロは全員殺してしまえばそんなことはないだろうととりあわなかった。
キリスト教徒たちが逮捕されていることを知ったビニキウスはリジアをさがして牢獄に行くが,自分も捕らえられ,リジアと同じ牢に入れられてしまった。
ペトロニウスは友人たちを招いて最後の晩餐を開き,エウニケを解放し,財産をすべて残すと宣言するとその終わりに医師に手首を切らせた。エウニケは医師からかみそりを取り上げて自ら手首を切った。そしてペトロニウスは皇帝への手紙を口述する。殺人も,ローマを焼いたことも許すが,あの退屈の詩だけは許せないと述べた。その遺書はセネカが皇帝に届けた。
円形競技場ではキリスト教徒たちの一団がライオンの群れに食い殺されようとしていた。皇帝が合図をしようとすると,観客席のペテロが信者たちに呼びかけた。信者たちは勇気を取り戻して歌を歌い始めた。ペテロは捕らえられ,リジアたちの牢に入れられた。
ビニキウスたちの番も翌日に迫っていた。リジアは死ぬ前にペトロニウスと結婚したいと言い,ビニキウスはキリスト教の教義には疑問もあったが,同意した。ペテロに夫婦にしてもらった。
その晩,ペテロは皇帝の命によりバチカンの丘ではりつけにされることになった。ペテロは主と同じとは光栄だと言ったが,変化をつけるためにさかさはりつけとなった。
翌日,リジアたちだけを残してキリスト教徒たちがアリーナに引き出された。老将軍プロティウスは放火したのはネロだと民衆に告げた。観衆は憤ったが,キリスト教徒たちはそのまま歌いながら火刑にされた。
最後に残ったのはビニキウスとリジアとその屈強な護衛。リジアがアリーナで柱に縛り付けられる。そしてリジアを襲う牛から護衛がリジアを守るという趣向だった。ビニキウスは皇帝の桟敷に連れていかれてそれを見せられた。皇后の発案だった。
巨人は何度か突き飛ばされたのちに牛の角をつかむことに成功した。見ていたビニキウスはキリストの助力を願わずにはいられなかった。ついに巨人が牛を倒すと,観衆はこぞって親指を上に向けた。皇帝の側近たちまでもが軒並みそうしている。しかし,皇帝は指を下に向けた。
ビニキウスが戒めを破ってアリーナに駆け下りる。近衛兵が飛び出すが,軍団兵もビニキウスに従うべく飛び降りて近衛兵と格闘になる。ビニキウスはその場をしずめて宣言した。ガルバ将軍が明日ローマに到着する。ガルバ皇帝万歳と。
民衆はいっせいに蜂起した。宮殿に逃げ帰った皇帝はキリスト教徒を殺すようにそそのかしたのが皇后だと言ってその首を絞めた。
一人になった皇帝の前に,宮廷を追放されたキリスト教徒の女官が現われた。民衆に殺される前に皇帝らしく自死しろというのだ。皇帝も観念し,女官の力を借りて短剣を胸に突き刺した。
ガルバが皇帝となり,ビニキウスとリジアは孤児の少年を連れてギリシャへの道をとった。